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無題

あの人は優しい。


僕が眠れないほどに不安な夜は、何も言わずに隣に一晩中いてくれた。

茫漠とした恐怖に苛まれた時、僕の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に温かく撫でてくれた。

求めれば、いつも僕の側で逃げ込める大きな懐を広げて待っていてくれた。



あの人の言葉は一つ一つが無神経で、切り出したばかりの熱を持つ。

そしてその言葉で僕を叱りつけてくれた。

一人で抱え込むな、と。



あの人は優しい。

でも、僕はずっとずっと前から、初めて出会った時から、

あの人の視線の行き着く先には、僕の姿はどこにも存在しないことを知っていた。

いや、知っていたんじゃない、分かっていた、分かりきっていた。



あの人は優しい、惨いくらいに。
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by ryo-ta-n | 2008-08-26 01:34 | 雑記  

無題

僕は注射針を橈骨動脈に刺した。

皮膚を針が貫く、痛い。

皮下組織の中を針が進んでいく、疼く。

ブチブチと結合組織が切り裂かれる音が腕の奥から聞こえる。




針先が血管壁を貫いた。

鼓動に合わせて血液が針の内腔を通して吹き出る。

真っ赤な、温かい、僕の体を満たしているもの。




ああ、僕はまだ生きているんだ。

心が吐き出せなかった「なにか」を腕から勢い良く溢れさせながら。

浴室の白い壁が、着ていた白いシャツが、彼岸花のような燃える赤に染まるのを見ながら。

無機質に僕の右手は、左の手首から針を引き抜いた。
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by ryo-ta-n | 2008-08-19 17:11 | 雑記  

無題

違う、僕が求めた言葉はこんなのじゃない。

こんなにも誰かの心をえぐるような言葉じゃない。

誰かを包み、誰かに包まれるための、ただそれだけの言葉。

この口から飛び出していく想いは、魂の垢のような呪わしいものばかり。

奥にためこんだ浅ましく、痛ましい想いが、瞬きをする間に熟れては弾け飛んでくる。

この口から、誰かの優しさに向けて。

すがりたかった心に、鋭い牙を立てて。

振り向いて手を差し伸べて欲しかった人の返り血を浴びながら。
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by ryo-ta-n | 2008-08-13 21:59 | 雑記  

無題

どうしてこの人は、こんなにも笑顔なんだろう。
どうしてこの人は、こんなにも優しいのだろう。
どうしてこの人は、こんなにも眩しいのだろう。

ずるいずるいと罵りながら、
一日一日とこの人に自分が呑まれていくのが、
一日一日とこの人へ自分が墜ちていくのが、
夜の闇夜になでまわされた時の痛みを伴って、
僕の心を疼かせていく。

僕は、この人の首が欲しい。
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by ryo-ta-n | 2008-08-06 04:00 | 雑記