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無題

永い時間の片隅で、僕達は悩み、笑い、怒り、泣き、死んでいく。
死んでいくのは恐いことだと、悲しいことだと、当たり前のように思いながら。

でも、僕達が何をして、どうなったかなんていうのは、さして問題にはならない。
今、僕達の体は、僕達と同じように生きてきた、命あるものの姿なのだから。

僕の指先は昔、空を飛んでいたのかもしれない。
僕の心臓は昔、水の中を泳いでいたかもしれない。
僕の目は昔、光が見えていなかったかもしれない。

僕達は大きな輪の中で、お互いがお互いに、吸収し、吸収され
新しい時間の一瞬を築き上げている。

生きて、死ぬ。
それは次の一瞬への繋ぎのための一瞬に過ぎない。
でも、一瞬でも途切れては、次の一瞬には繋がらない、かけがえのない一瞬。
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by ryo-ta-n | 2007-08-26 14:29  

無題

地面に落ちた蝉の葬列を、蟻が作っている。
羽が、足が、首が、一つずつ切り離されて、暗い穴の中へと運ばれていく。
蝉はもう鳴かない。
魂を余さずに燃やし尽くした。

あの千切られた体は、やがて新しい魂を宿してこの世に舞い戻るだろう。

私は命が尽きた後、魂の新しい受け皿になれるのだろうか。
血肉だけの塊になるのだろうか。

体の隅々まで記憶を散りばめて、魂がこの血肉を喰らい尽くすその日まで、
おだやかに、おだやかに。
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by ryo-ta-n | 2007-08-19 18:05  

無題

彼はみんなから愛されていた。

でも、たった一人だけ、彼を絶対に愛さなかった。

彼自身は、彼を愛することがどうしてもできなかった。

いつも自分を疑い、蔑み、悲しんでいた。
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by ryo-ta-n | 2007-08-15 01:14 | 雑記  

無題

女性を見た。

電車で向いの席に座っていた人。
若くもなければ、年寄りと言うわけでもない。
彼女の両手は膝の上ではなく、だらりと体の両脇に放られていた。
気だるい、というよりは、力なさ気という感じだった。

二つの瞳は僕を通り越して、窓の向こうの遠ざかりゆく河に向けられていたようだ。
僕は無遠慮に彼女を見つめた。
黒く短い髪はサラサラと音を立てるように、車両とともに揺れている。
細く伸びた腕は、薄い胴体からもげ落ちそうだった。
薄墨色の服はまるで彼女の一部であり、そして彼女そのもののようだった。


しかし、なぜだろう。
彼女から不健康な雰囲気は感じられない。
それよりももっと、透明な、大きな何かを感じる。
たとえて言うなら、宇宙のような、何か。


そう思った瞬間、息がうまく吸えなくなった。

僕が言う「カミサマになりたい」ということは、彼女のことなのかもしれない。


そして彼女は僕の前を通り過ぎて、電車を降りた。
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by ryo-ta-n | 2007-08-10 21:59  

歯車

知らない場所で、知らない歯車が回る。

知らない歯車と、見覚えのある歯車が語り合う。

知り得ない時間が、知った場所から生まれる。

知りたかった出来事が、知らない場所で流れていく。

噛み合わなかった歯車が一輪、天に向かって回り始める。

歯車が立てる音が、この世界の全てを紡ぎ続ける。
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by ryo-ta-n | 2007-08-05 03:54 | 雑記  

無題

随分と長いこと止めていたタバコを最近また吸うようになった。
周りが明日に熱くなればなるほど、ますます醒めていく瞳。
全てが蒼く、冷たく見えてくる。

こんなはずじゃなかった、なんてことは思ったことはない。
ここは自分が望んで辿ってきた道の上。
きっと昔の俺は、心のどこかでこうなりたかったんだろう。

涙を流すこともなく、腹の底から笑うこともない。
見場を気にせず、自分の好きなところへ舵をとる。
一人きりで、毎日。

誰かに感づかれないように、霧の中を行く。
誰の声も届かないように、峰伝いに。
遠くに見える街の灯かりの中には、どんな人がいたのだろう。

俺は昔、あの灯の一つだった。
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by ryo-ta-n | 2007-08-03 19:32 | 雑記  

無題

約束の裏に隠した期待が、ここにいる事実を滑稽なものにする。
目の奥がひりひりと痛い。

タバコを一本取り出して、火を点けた。

煙に約束の二文字を溶かして吹き出す。
約束を契約の二文字に書き換えて、それで俺は彼の罪を忘れよう。

心に溜め込んだ怒りは、やるせない悲しみに置き換わる。
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by ryo-ta-n | 2007-08-01 03:34