無題

木枯らしと共に、来るべき時を間違えた師走の寒さに包まれた神無月の朝、
私は港から旧市街へと抜ける道を歩いた。

港は最近再開発が進む一画に狂ったように背の高いマンションが建設され、
しかもそのどれもが設計者同士が口を合わせたかのように、
白と明るい灰色の壁に青いガラスをはめ込んである。

そうしてそれらは、溜息と冬独特の虚無間を溶かし込んだような、
吸殻色の空へ乱暴に頭を突き出して、
日に焼けてすっかり褪せたペンキが塗られているか、
あるいはそれが剥げて潮風で赤黒く錆付いてしまった、
くたびれた倉庫で溢れるこの港町本来の姿を小ばかにしたように見下ろしている。

港から古びた山の手にさしかかるところでは、新たにまた馬鹿みたいにでかいビルを建てていた。
そのビルの根元の立ち入り禁止のフェンスの際で、恐らく親子であろう
幼子とすこしくたびれた女が上を見上げていた。

私は立ち止まり、彼らの視線を追った。
そこには特に変わり映えのない、灰色のコンクリートの塊を積み上げただけの
風邪をひきそうな、裸の造りかけのビルがあるだけだった。

突然、幼子が大きな声をあげる。

あっ、いた!パパ!パパ!

幼子は母と思しき人と大きく空に向けて手を振り始めた。
ビルの側面に付けられた工事用のエレベーターに乗り込んでいる
小さな人影が大きく手を振り返すのが見えた。

パパ、やっぱりすごいね。

幼子ははしゃぎながら彼女に手を引かれて町の中心にある駅へと歩いて行った。

そうか、見下ろしているんじゃない。
すがる様に懐かしい目と、憧れの目で満ち溢れながら、この町は
少しずつ生まれ変わっているだけなんだ。

私は強くなった北風の音を聞きながら
ジーンズのポケットに両手を突っ込んで、また当て所なく歩き始めた。
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by ryo-ta-n | 2008-11-11 00:34 | 雑記  

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