無題

あの人は優しい。


僕が眠れないほどに不安な夜は、何も言わずに隣に一晩中いてくれた。

茫漠とした恐怖に苛まれた時、僕の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に温かく撫でてくれた。

求めれば、いつも僕の側で逃げ込める大きな懐を広げて待っていてくれた。



あの人の言葉は一つ一つが無神経で、切り出したばかりの熱を持つ。

そしてその言葉で僕を叱りつけてくれた。

一人で抱え込むな、と。



あの人は優しい。

でも、僕はずっとずっと前から、初めて出会った時から、

あの人の視線の行き着く先には、僕の姿はどこにも存在しないことを知っていた。

いや、知っていたんじゃない、分かっていた、分かりきっていた。



あの人は優しい、惨いくらいに。
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by ryo-ta-n | 2008-08-26 01:34 | 雑記  

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