冬の明ける季節

まだ肌寒いけれど、多摩川のどてっぺりには蕗の薹が出ていた。
友達には恋人ができたらしい。
家の玄関先の梅の花はもう散り始めている。

染織物を広げたような夕焼けが人々に家路を思わせる頃
俺はまだどてっぺりにいた。
辺りはどんどん人影が薄くなり、温もりを失った空気はどんどん冷え込んでいく。

水面に墨をこぼし始めた夜は俺をも飲み込み始めた。
橋の上の車の光が生き急ぐ魂の群に見える。
そろそろ帰らなくては。

帰る?
どこへ?
いったいどこへ帰れば俺は安息を得るんだろう?

もう永いこと心の帰る先が俺にはない。
一日中つかみどころのない時間の中をただひたすらに漂い、
そして次の日の時間へと俺の魂を繋いでいく。

ここはどこだ?

もう永いこと俺に差し伸べられた手はない。
目の前を行きかう人たちは俺の一日一日ののりしろで、
気がつけば日常の渦の中に飲み込まれていく。

どこから俺は来たんだ?

全てを凍らせた冬の日から自分が抜け出せていない。
この冬が明けないんじゃない、もう何年も前から冬だった。
厚く切れそうな冷気の中で俺はいつまでも外へは出られない。

その冬は、俺自身が築いたものだから。

二度とこの扉は開かれず、二度と俺に春は来ない。
なにもかもが、自分ですら、動くことを許されないままで。
全ての感覚を奪い去るこの冬の影の中で、今日ふと春という季節を思い出した。
[PR]

by ryo-ta-n | 2007-02-08 18:54 | 雑記  

<< 結末 長期戦 >>