タバコとライター

俺がタバコを嫌いなのを知っていて、
彼はバッグの中からタバコを一本と、ライタをー一つ、机の上に置いた。




お前さ、この二つのうち、どっちか取らなきゃいけないとして、どっちを取るよ。




俺はライターだと答えた。
彼は実に愉快そうに口元に笑みを浮かべると、やっぱり、と言った。




お前は何が何でも自分の道を進まないと気が済まないんだよ。
自分の前に立つものは優しい顔をしながら容赦なく排除する。
全部が自分の思い通りになるとは思ってないのがせめてもの救いだけれど、
その八方美人の内側にはこのライターのオイルみたいな
どろどろしたモンを溜め込んでるんだよね。


で、俺は ――― 彼は続けた。


俺はこのタバコ。
何にも逆らわず、何の役にも立たず、でも絶対に誰かには必要とされるようなそういう存在。
中毒者みたいな、そういう好き者にしか必要とされないけど。
でも、普段はお前みたいなヤツの前にワザと立ちはだかって、焼かれてみせんのさ。
俺が燃えながら煙を上げて、周りの奴等に警告するんだ、
コイツの本性はこんなんなだよ、って。



言い終えると、彼はそのライターで、そのタバコに火をつけた。



あぁ、そのタバコのように自分を諦められたら、俺は楽になるんだろうか。
彼のような全てを見透かしたような澄んだ目になるんだろうか。
この手には多くの偽物を掴みすぎて、握り締めたまま開けなくなってしまった。
愛も、優しさも、金も、地位も、名声も、全てが偽りでしかない。




…お前、今難しいこと考えてるだろ。
もう少し楽になりなよ。
とりあえず、吸いなって。




そうして俺は、七年振りにタバコに火をつけた。
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by ryo-ta-n | 2006-09-06 20:08 | 雑記  

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