燃やしてしまおう

洗い流せないものならばいっそ燃やしてしまおう。

できるだけ無残に砕いて、破いて、傷つけて、燃やしてしまおう。

燃やしきれないのならば、せめて元がなにか分からなくなるまで燃やしてしまおう。

全てを火にくべて、はるか彼方へ昇らせてしまおう。




――― そうして私は火をおこした。




一つずつ、その姿が崩れていくのを見守り、最後の一つを手に取った。

それが何なのかは、もう良く分からなかった。

ただ、そこから逃げ出したい気持ちに気がつかないふりをするので精一杯だった。

そして、震える手でその最後の一つを火の中に放り込んだ。





短い時間だったが、その端に火がともり、

炎がひねた私の胸の内を代弁するかのように

大事そうにそのすみずみまでを焼きつくし、

そしてそれが真っ黒な灰へと変わりゆくのを見届けた。














後には静かな炎が灰になったそれらを、それでも尚しつこく焼き尽くそうとする光景だった。











あぁ、これで全てをそれぞれの元へと返すことができた。

すべてを私の心の中から燃やし尽くすことができた。

これで、自由になれる。














その時、何か違和感を感じた。

なにかが胸の奥にある。

懐かしく、それでいて醜悪な、なにかが。










それは、残った灰だった。

姿を変えても、私の胸の内に残され続ける運命のそれは、恨めしそうな目で私を見ていた。

そう、私は灰を見ていたのではなく、灰に見られていたんだろう。










背中を冷たい汗が流れ落ちた。

声にできない悲鳴が頭の中に響いた。

体が急に思い通りに動かせなくなった。






声がする。

一緒に行こうと声がする。

一緒に行かねばと誰かが背中を押す。

この炎に焼かれる最後の者として私は堕ちていかねばならないことにその時気が付いた。






この身を、この心を、彼らに差し出さねばならない。





そして、私はその火の中にへと歩みを進めた。

ゆっくりと、一歩ずつ。

もう逃げることは許されなかった。






ふと、私は彼らが私のことを見下ろしている姿をみつけた。

彼らは決して昇っているのではなかった。

ただ堕ちていく私を、怒りと悲しみの目で送るだけだった。

彼らは焼かれつつも、姿を変えただけで、昇れなどしなかった。
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by ryo-ta-n | 2006-06-10 01:34 | 雑記  

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