終着駅と始発駅

ある晩、俺は葬式に行った。

誰の葬式だったかは、もう覚えてはいない。

多分遠い親戚か、そうでなければ近所の人だったんだと思う。

いや、友達だっただろうか。




大きめの黒い漆塗りの木の机の上には弔いに来た人を労うべく

ビールといくつかの食べ物が置かれていた。

葬式がある度に思うのだが、弔いに来た者は

死者を悼み、そしてその近しいものを気遣うためにそこにいるのに、

なぜ傷ついている者は酒や、寿を司ると書かれるような贅沢なものを用意するのだろう。



もしかすると送るべき人の最後の旅路が涙と悲しみだけで満ちぬよう、寂しくならないように、

残されたものとしてできる最後の精一杯のことなのかもしれない。





記憶は曖昧だが、棺桶の脇には嗚咽をもらし、悲しみに沈んでいる人が幾人かいた気がする。

ただ一つはっきりと覚えているのは、隣の部屋から赤ん坊の泣く声が聞こえていたことだ。

さっきまで寝ていた赤子。

母親の乳が欲しくてぐずり始めたらしい。




その時、俺はホッとした。

死が支配していたそこにも、生きる力は溢れていた。




ひょっとすると、死ぬということと、生きるということは、そこまで変わらないことなのかもしれない。





あの赤子は、今どこで、どうしているだろうか。
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by ryo-ta-n | 2006-05-12 04:17 | 雑記  

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