霧の朝

そう、あれは今日みたいな空だった。
コーヒーに入れようとして、でも手が滑って、
そしてこぼしてしまったような安っぽい牛乳。
そんなことを思わせる味気のない白く重い霧が
手の届きそうなところまで降りてきている日だった。

そして気分も今日と同じ。
何かに頭を押しつぶされそうな、そんな日。
あまりに押しつぶされそうだから、
体の中にあるもの全て戻してしまうかと思った。

夜明け前に飲んだウイスキーも
人目を忍んで吸い込んだタバコの煙も
人恋しさに口付けしながら弄んだ真っ赤ないちごも
心の深いところにこびりついた涙も。


その時は頭も痛くて、そして若かったから、ただの二日酔いだと思っていた。





でも、違ったんだね。

俺ったら忘れていたんだよ、キミのこと。
だってもう、随分と昔のことだもの。
許してくれとは言わない、でも分かっては欲しい。



キミはよく言ってた。

「霧が立ち込める朝が好きなの、なにかに包まれてる気がするから」



その時はキミがなにを言っているのか分からなかったけど、
今、こうして重い頭を抱えながらだけど、少しどういうことか分かった気がするよ。






でも、その日からあまり日も経たずして俺は霧の朝が大嫌いになった。

理由?

簡単さ、キミが霧の朝に死んでしまったから。
机の上に俺への手紙と、毒の入った小瓶を残して。





その日から、俺は憎むようになったんだよ、霧に包まれる朝を。
朝の清らかな霧に溶け込みながら、今でも俺を包み込むキミを。


そして俺はキミのことを忘却の時へと葬った。
いや、葬ったと自分で思い込んだんだね。

だって、今こうしてキミのことを思い出してしまっているのだから。






相変わらずキミはズルイよ。

キミは俺をこうやって抱きしめるのに、
俺はキミをもう抱きしめられないのだから。
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by ryo-ta-n | 2006-05-08 05:58 | 雑記  

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