無題

人生で最も難しいことは忘却することだ。
愛着を通り越して、愛惜を覚えるにまで至った出来事は殊更に難しい。
それでも私がまだ前に進もうとするのは、
恐らくはまだこの世界のどこかに消化しきれない膨大な未練と、
そして僅かな希望を抱いているということなのだろう。

季節はゆっくりと、けれども確かに次の時へと全てを運んでいく。
秋から胸に潜めた思い出の形見は、
しばれる厳冬を抜け、朧の中でとうとう手放すべき所在を失い、
気が付けば立夏の節目に至っても、尚零れ落ちることはなかった。

どれ程の言葉を重ねて、どれ程の形見を眺めても、全ては独りよがりなだけで
この距離はもう塵一つ分でさえ縮まり得ない。

こうやって私はまた次の季節へも、その更に次の季節へも、
後生大事に形見を手放さずに独りで歩いて行くのだろう。

願わくば私一人だけが形見の所有者ではないよう祈りつつ。
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by ryo-ta-n | 2011-05-05 15:25 | 雑記  

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